DTMからDAWへ:身近になった「手前音楽」制作のススメ

かつてPCやMacを使ってバンド演奏の伴奏、いわゆるカラオケ音源を作る行為は「DTM(DeskTop Music)」と呼ばれていました。それがいつの頃からか、「DAW(Digital Audio Workstation)」という、より専門的でマニアックな印象の言葉に変わりました。このDAWという響きから、プロのエンジニアや「打ち込みの鉄人」のような世界を想像する方もいるかもしれませんが、実はDAWの世界は非常に身近で、私たちのような「手前音楽」を楽しむアマチュアにこそ必要なツールなのです。

今回は、私がカラオケ音源を自作する理由と、そのためにDAWソフトをどのように活用しているかをご紹介します。

「カラオケ音源は自分で作る」という選択

市販されているカラオケ音源の多くは、原曲と同じテンポとアレンジで作られています。しかし、楽器の演奏練習や人前での披露を目的とする場合、自分のスキルや表現したいスタイルに合わせた「オリジナルのカラオケ」が必要になることが多々あります。

特に私の場合、技術的な問題から、原曲と同じ速さで演奏するのが難しい曲もあります。伴奏のテンポを落とす、特定の楽器の音色を変える、あるいは苦手なパートをカットするなど、完全に自分のペースと要望に合わせた音源が欲しくなるのです。

これが、市販の音源ではなく、DAWソフトを使って一からカラオケ音源を自作する最大の理由です。

DAWソフトは意外と身近な存在

PC/Macで本格的な音楽録音を始めようとするとき、まず必要になるのが「オーディオI/F(インターフェース)」です。これは、楽器などのアナログ信号をデジタルに変換し、USBケーブルでPC/Macに入力するための「箱」です。

このオーディオI/Fを購入すると、ほとんどの場合、その機材を動かすためのDAWソフトの「廉価版」や「ライトエディション」がセットで付属してきます。例えば、私が使用しているYAMAHA AG03というオーディオI/Fにも、高性能なDAWソフト「Cubase」の付属版が同梱されていました。(本記事にはアフィリエイトリンクが含まれます)

なぜDAWソフトが同梱されているかというと、ユーザーがオーディオI/Fを買う目的は、ギターやベースなどの楽器の音をマルチトラック(複数のパート)に録音し、バンド演奏のカラオケを作りたいからです。そのため、マルチトラック録音機能を持つDAWソフトは、オーディオI/Fにとって必須の「おまけ」なのです。特別な高額ソフトを購入しなくても、手持ちの機材に付属しているソフトで、DAWの世界はすぐに開けるのです。

自宅でのマルチトラック録音術

バンド構成のカラオケ音源を作る際、自宅で生の録音が事実上不可能なパートがあります。それが「ドラム」です。大きな音が出るドラムセットを自宅で叩いて録音するのは、環境的に無理があります。

そこで活躍するのが、DAWソフトに付属している「MIDI音源」です。この音源を使って、まずドラムパートを打ち込みで作成します。ドラムパートは、細かいフィルインなどを無視すれば、基本の8ビートや16ビートのパターンを繰り返すことが多いので、最初の1小節を打ち込んでしまえば、あとはコピー&ペーストで一曲分を比較的簡単に作ることができます。

ドラムが完成したら、いよいよライン録音です。ライン録音とは、楽器の音をオーディオI/Fを通して直接DAWソフトに取り込む方法です。私の場合は、ドラムの次にギター、そして最後にベースの順で録音を進めます。リズムパートであるベースを先に録音すると、曲の構成やグルーヴ感が掴みにくくなるため、メロディやコード進行の要となるギターを先に録音する方が、作業を進めやすいからです。

最終工程:トラックダウンと「ソロを弾く」喜び

ドラム、ベース、ギター、そして必要に応じてMIDI音源で打ち込んだキーボードパートなど、すべての楽器をマルチトラックで録音し終えたら、最後の工程「トラックダウン」(またはミックスダウン)を行います。これは、複数のトラックを同時に再生し、音量や音質を整えながら、一つのステレオ音声ファイル(WAVファイルなど)に変換する作業です。

このトラックダウンによって完成したWAVファイルこそが、私の求める「オリジナルカラオケ音源」となります。

この音源を使って私が何をするかというと、リード楽器(ギターやウクレレなど)の「ソロ演奏」の練習や披露です。本当のカラオケで言えば「歌うパート」の部分を、生演奏のリード楽器で埋めるわけです。リードパートまでカラオケに入れてしまえば話は早いのですが、私が本当にやりたいのは、このリードパート(メロディ)をいかに格好良く、ライブ感をもって弾きこなすか、ということなのです。

例えば、ギターしか弾けない私が、ピアノやストリングスが必要な曲を演奏する場合、DAWソフトのMIDI音源でそのパートを打ち込むことができます。また、多くの楽器演奏において、「ソロ演奏」とは伴奏とメロディを同時に弾くという超絶技巧を要します。しかし、伴奏をDAWのカラオケに任せてしまえば、私はリードパートだけを単音で弾くことに集中できます。これにより、憧れの曲のほとんどを、比較的簡単に「美味しいところだけ」演奏できるようになるのです。

私の「手前音楽」のスタイルは、「一番いいところだけをソロで簡単に弾く」ために、DAWソフトを動員してオリジナルのカラオケを作るという、非常に効率的で個人的なスタイルなのです。