鎌倉・長谷の「北橋」を訪ねて:憧れの玉子とじ蕎麦と聖地巡礼の旅

「続・続 最後から二番目の恋」というドラマをご存知でしょうか。熟年世代、特に私と同年代の方々にとっては、共感と憧れの詰まった名作であり、その舞台となった鎌倉は、一度は訪れたい「聖地」です。本来であれば、主人公たちが暮らす極楽寺エリアから巡礼を始めるべきかもしれませんが、今回私が向かったのは、大仏様で知られる長谷。その目的は、俳優の三浦友和さんと小泉今日子さん(キョンキョン)が劇中で一緒に蕎麦を食べていた、あの店、「北橋」を訪れることでした。
聖地巡礼の旅は、期待に胸を膨らませてスタートしましたが、実際に「北橋」の扉を叩くまでには、人気店ならではの混雑という、予想外の試練が待ち受けていたのです。
大正ロマン漂う蕎麦屋「北橋」の由緒
長谷駅からほど近い参道から少し奥に入った場所に、「北橋」はひっそりと佇んでいました。その敷地に入ると、まず目に入るのは、趣のある和風の邸宅と、それに連なるような洋風の別館。そして、ゆったりと広がる庭園は、ここがただの飲食店ではない、由緒ある場所であったことを物語っています。
調べたところ、この場所は元々「旧加賀谷邸」の跡地でした。大正時代頃に、加賀谷家によって和洋折衷のスタイルで建てられたこの歴史的建造物を、ある不動産業者が買い取り、建物を保存・活用する取り組みの一つとして、「北橋」という蕎麦屋とカフェの複合店舗へと生まれ変わらせたという経緯があるようです。歴史と文化を感じさせる建物の中で食事をいただけるという点も、「北橋」の大きな魅力の一つとなっているのです。
縁側での蕎麦に憧れて:人気店の待ち時間との闘い
憧れの「北橋」に到着したのは、開店前の午前10時頃でした。入り口に近づくと、「あぁ、これだ!」とすぐに分かりました。ドラマの中で二人が座り、蕎麦をすすっていた、あの情緒ある「縁側」が目の前にあったからです。感動もつかの間、既に長蛇の列ができていることに気づきました。
開店まで1時間もあるというのに、すでに多くの人が並んでいます。不安を感じながらも列に加わった私たちが受け取った整理券の番号は「17番」。お店の方からは、「11時開店ですが、その番号だとお蕎麦を召し上がれるのは12時台になるでしょう」と告げられ、一旦解散となりました。
そこで、私たちは待ち時間を有効に使うため、「北橋」が展開するもう一つの顔、蕎麦屋に隣接する「北橋カフェ」へと入ることにしました。「蕎麦とカフェの二刀流」というスタイルは、待つ人々にとっては非常にありがたい仕組みです。洋式のモダンでおしゃれな造りのカフェで、アメリカンコーヒーを飲みながら喉の渇きを癒し、時間調整をすることにしました。
カフェも満席かと思いきや、蕎麦待ちのお客さんが皆ここへ集中したわけではないようで、案外すんなりと席に座ることができました。30分ほどカフェで過ごしましたが、さすがに待ちくたびれてしまい、鎌倉駅方面へ向かい通り沿いの店を散策しようと試みました。しかし、あいにく日曜日のせいか開いているお店があまりなく、すぐに長谷方面へと引き返しました。
念願の「玉子とじ蕎麦」との感動的な再会
そうこうしているうちに、予定よりも早く「席が用意できそうだ」とお店から電話がかかってきました。慌てて「北橋」へと戻り、ついに念願の席へ案内されました。
席に着いたものの、メニューを見る必要はありません。今回の聖地巡礼の旅で、私が注文するものは最初から決まっていました。それは、ドラマの中で三浦さんとキョンキョンが頬張っていた、あの「玉子とじ蕎麦」です。店員さんがお冷を持って席に来るやいなや、迷うことなく注文を入れました。
正直なところ、テレビドラマで急に有名になったお店なのだから、味はそれほどでもないだろう、という先入観が私の中にありました。しかし、運ばれてきた「玉子とじ蕎麦」を一口すすった瞬間、その先入観は見事に打ち破られました。
出汁の風味豊かな優しい味わいと、ふわふわの玉子のとじ具合が絶妙で、想像以上に美味しいお蕎麦だったのです。聖地巡礼という目的だけでなく、純粋に「美味しいお蕎麦屋さん」として、またしばらくしたら「北橋」を訪れ、今度は別のメニューも試してみたいと心から思いました。長い待ち時間も、この一杯の満足感で報われる、そんな特別な体験となった鎌倉の旅でした。

